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short short story 001

どこにでもあるようなカフェ。

そう思いながらもこのカフェはここにしかない。ならば、どこにでもあるようなカフェなんてものは、この世界に一つもないのではないかと思う。

僕らもどこにでもいそうなカップルだけれど、この世界で僕らしかいないんだよ。
そう言えば、今のこの雲一つ無い空に雨を望むような絶望的な状況が変わるかと思ったが
無駄な気がして窓の下の白川を眺めた。
僕か彼女どちらかが一言発すれば周りの温度が一度下がる、そんな空気だった。

「確認したいんだけれど、僕の事が嫌いになった?」

「嫌いではないわ。イヤになっただけ。」

「困った。嫌いもイヤも漢字ならば同じ字だ。」

彼女はアイスコーヒーをカラカラとかき混ぜ、そうね。と呟いた。

「浩子はこの店のワッフルが好きだったけれど、今は・・・ 」

「食べる気にはならない。」

「だろうね。嫌いじゃないけれど、今はイヤ。」

彼女の反応が無い事がわかると僕はまた視線を白川に戻した。
川を見ていると時間が流れているという事を時計の秒針を眺めているよりも実感できる。
時間も、川も、流れる。

「浩子のおかげでタバコを止める事ができた。この先、僕がずっとタバコを吸わなかったら 、タバコを見る度に浩子の事を思い出すよ。」

「十年後には世界からタバコが消えているかもしれない。」

「そしたら焚き火の煙を見て思い出すよ。」

「だいぶ違うと思うけど。」

「できれば浩子が僕の側にいてくれるとそんな煩わしい思いをしなくて済むんだけど。」

浩子は黙ったまま僕を見つめている。
こういう時は僕から話さなければならない事になっていた。
それは浩子と付き合って初めての約束で、浩子はこう言った。
私があなたを見つめた時は私があなたに何かを求めている時よ。
雨が降ったら傘をさすように、私が見つめたらあなたは話すの。
あなたは常に傘を持っていなければならない。
よく晴れたその日の最後に、私は雨女なの、と浩子が言い、じゃあ僕は傘男だ、と答えた。

「僕は今もちゃんと傘を持っている。こうして今、ぱっと開いている。」

浩子は変わらず僕を見つめている。

「ずっと前に、浩子が虹を見たいと言って僕を困らせた事がある。覚えてる?」

浩子はすぐに頷いた。

「僕は大きな噴水を探し回って浩子に虹を見せる事ができた。
 僕はその日の事をよく思い出す。そしてこう思う。夜じゃなくて良かった、ってね。
 でも、たとえ夜だったとしても僕は虹を探しだして浩子に届けたと思うよ。
 自分で言うのもなんだけど、なかなかできる事じゃない。」

浩子は下唇を持ち上げ少し不満そうな顔をしたが、
それは不満というか困った子供を眺めるような顔で、
それは決められている事のようにやがて諦めた顔になった。

「ワッフル食べようかしら。私の一番好きなやつ。」

「そうした方がいい。プーズカフェのワッフルは世界一うまい。」

僕はようやくコーヒーに口をつけることができた。

「ところで、僕のどこがイヤになったの?」

「私に結婚を申し込まないところ。」

「あ あ、きっとそいつはどんなに晴れた日でも傘さえ持ってればいいと
 思っているやつに違いない。」

外はよく晴れていて、白川の水はキラキラと輝いている。
外を歩く多くの観光客達がしきりに空を見上げている。
雲一つ無い空からの雨、天気雨だった。

  文・市川剛史


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