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10月1日、臨時休業のお知らせ

臨時休業のお知らせです。

9月30日(水) 定休日
10月1日(木) 臨時休業 
 連休となります。
ご迷惑おかけ致しますが、
よろしくお願い致します。

short short story 004

プーズカフェの扉が開くと扉につけられたベルがちりん、と鳴る。
春には優しく、夏には強く、秋には涼しく、冬には澄んで、ちりんと鳴る。
僕は四季の全ての鳴り方を知っていた。そしてその音色が響く度に僕はドアに目をやる。
決して現れない彼女の姿を求めて。
いったい彼女はどこに行ってしまったのだろう。
まるで月の裏側に隠れてしまったかのようだ。
そして、地球にいる僕はいったいいつまで、決して見えない彼女を探し続けるのだろう。

僕はいつも思う。
本当に彼女がそのドアを開けて現れたら、いったい僕はどうするつもりなのだろう。
「やあ、久しぶり。偶然だね」なんて言うのだろうか。馬鹿げている。
それとも、一言も交わさずに彼女の姿を一目見るだけで満足なのだろうか。
僕にはわからない。しかしその機会はおそらく来ることはないだろう。
なにせ彼女は月の裏側だ。
それでも僕は想像し続ける。彼女がそのドアを開けて入ってくるのを。
その時、ドアのベルはどんな鳴り方をするのだろう、と考えながら。

そうだ、と僕は思う。彼女が来たらこんな話をしよう。
少し長い話だがコーヒーを一杯飲むのに充分おつりがくる。

ある娘と青年が恋に落ちた。しかしその二人は身分がとても違いすぎた。
そう、よくあるやつだ。娘は大きな家に住み青年には家と呼べるようなものがなかった。
当然娘の父は反対した。二度と会うなと言った。
娘は、それならば私は死にますと言い、
父を困らせ、仕方なく一年に一度だけ会ってもいいと約束をもらった。
それから、二人は一年に一度だけ会った。二人が会う時はいつも泣いた。
また一年会えないのね、と言いながら固く抱き合い、別れを惜しみ一年後の約束をした。
ある年、約束の日に彼女は現れなかった。青年は一日中待ち続けた。
しかしとうとう彼女はその日現れなかった。
娘はその日の少し前に流行の病にかかり死んでしまっていたのだ。
しかし、それを知らない青年は次の日も約束の場所に向かった。
次の日もまた次の日も。
しかし青年は決して不幸ではなかった。
毎日その場所に行けば、
いつか娘に会えるのではないかと、毎日希望が胸に満ちていたのだ。
仕事もした。食事もしっかり食べた。
青年は生き続けなければならないのだ。
しかし、青年はそれから数年後に娘と同じ病に侵され死ぬ事になる。
それでも青年は不幸ではなかった。青年は思った。
今度は僕が待つ番だ、と。
でも、実際は自分が待たせていた方だと気付いた青年はどんな顔をするだろう。
娘はずっとそれを想像しながら待っていた。青年が扉を開けて入ってくるのを。
その扉につけられたベルがどんな音色で鳴るのを想像しながら。


僕はそこまで考えると意識を現在に戻した。
少し深く考え過ぎていたので心配になったのだろう。
女店主がこちらを少し心配そうに見ていたので笑顔を返した。
決して不幸ではないですよ、と。

ちりん。

プーズカフェの扉のベルが鳴る。
それは今まで僕が聞いた中で一番素敵な音色だった。


文・市川 剛史

short short story 003

「はぐ」
と呼ばれて僕はすぐには反応できなかった。
その前に彼女からそう呼ばれたのはもうずいぶんと昔のことだ。
どうして彼女が僕のことを久し振りにそう呼んだかはすぐにわかった。
ちょうど店に入る時にすれ違った女性が嬉しそうに
「はぐ、はぐ」と言っていたからだろう。
それを聞いて彼女は昔の事を思い出し、僕にそのできの悪い犬のような名前で呼びかけた。
「 なんだよ。ちぐ。」

僕らがちぐはぐしていた時代。
僕が味噌汁を飲みたいと言えば彼女がカレーを作り始めていた時代。
じゃあ試しに「ちぐ」と「はぐ」を交換して呼んでみようか、と言って余計にちぐはぐした時代。
偶然すれ違った女性のせい、というかおかげで僕らは昔の事を語り合う事にした。
場所は白川沿いにあるプーズカフェ。
店内は空いていて、時間は空に置き忘れられた雲のように止まっているようで確実に動いていた。

「ちぐ」と「はぐ」がようやくお互いの必要性に気付き始めた頃、
僕は彼女に話をした。
ただ川に石を投げ込むような意味も無い暇つぶしの話だった。

「 月の裏側って地球からは見えないんだ。
 月は地球と公転と自転の周期が全く同じなんだ。知ってた?」
「知らなかった。」彼女はそう言って目だけ上を向いて黙ってしまった。
きっと頭の中で二つの球体がグルグルしていることだろう。
「 つまりこういう事だ。」
僕は彼女を立たせ、僕は彼女から少し離れた所に立った。
「君が地球。僕が月。」
「なんだかどこかの神話みたいなセリフね。」彼女はふふっと笑った。
「 そうだな、素敵だ。君が地球。僕が月。
 さあ始めよう。」
僕は彼女の周りをゆっくりと周り始めた。そして元の場所に戻ると足を止めた。
「 どう?僕は自転と公転をした。わかってもらえたかな?」
彼女は少し口を持ち上げて、ひとつわかった事がある、と言った。
「 ずっとあなたに見られていて気持ち悪いわ。」悪戯っぽく彼女は笑った。
「 それは仕方無い。君が地球で僕は月だ。」
でも・・・ と言って彼女は俯いた。
「 あなたの背中を見られないのは悲しくて、怖いことだわ。」
驚いた事に彼女は泣いていた。僕はそっと彼女を抱きしめた。
「 地球の引力はすさまじい。実際に月は地球の引力でその形を変える。」
「そんな事は聞いてない。こわいのよ。」
「僕の背中に手を回してごらん。見えなくても、その手で感じる事ができるはずだ。」
彼女の手が僕の背中に回りこんで、いろいろな方向に動いた。
「 どう?」
「意外に何もない。」彼女の声はスッキリしたようだった。
「 人類も初めて月の裏側を見た時にそう思ったに違いない。そんなもんだ。」


そこまで僕らは語り合うと、思い出話はそこで打ち切られた。
お互い恥ずかしかったのかもしれない。
「 ねえ、月?」それでも彼女は僕の事をそう呼んだ。
「 なんだ。地球。」
「あなた、顔が少し変形したんじゃない?」
「そりゃ、六十歳も過ぎればそうなるさ。それに、地球の引力はすさまじい。
 四十年も一緒にいるんだ。そりゃそうなるさ。」
しかし、こんな昔話になるなんて。不思議な店に来てしまったものだ。
僕はもう一度この店の名前を探した。『プーズカフェ』


旧ソ連の月探査機「ルナ3号」が初めて月の裏側を撮影したのが、
今からちょうど50年前の195 9年の出来事。


文・市川剛史

8月24日の貸し切りのお知らせ

8月24日(月)
 12時から13時は、貸し切りとさせて
 いただきます。
 ご迷惑おかけいたしますが、
 ご了承下さいませ。

尚、13時以降は通常営業となりますので
よろしくお願い致します。

8月22日の貸し切りのお知らせ

8月22日(土)
 15時から17時は、貸し切りとさせて
 いただきます。
 

尚、ランチタイムは12時から14時30分まで営業しております。
(ラストオーダー、14時となります。)よろしくお願い致します。
ご迷惑おかけいたしますが、ご了承下さいませ。